
“引っ張る”力を活かした新発想
従来の工法では、先端部の土砂を取り除きながら進むため、地盤の弱い場所では切羽が崩れ、陥没などの大事故を起こすリスクがありました。そのため、地盤を安定させるための各種補強工法が欠かせず、コスト面でも問題を抱えていたのです。 それに対し「牽引式シールド工法」は、まったく新しい発想でこの問題を解決しました。まずトンネルを掘る区間の両端に立坑を構築し、水平ボーリングで開けた孔にけん引ワイヤーを通します。ワイヤーの一方を発進側のシールド本体と、もう一方を引き出し側に設置した多数のジャッキに接続し、その力で全体を地中に引き込むのです。ケーシングパイプでトンネルを保護した後に内部の土砂を掘り出すため、切羽崩壊の心配がなく、極めて安全に施工できます。

日本初の難工事で証明された、確かな実力
日本で初めて導入されたのは、新興住宅地区の衛生環境改善を目的とした下水道幹線工事でした。現場は家屋が密集する用水路の下で、非常に軟弱な地盤に管を通す難工事でしたが、本工法は多大な貢献を果たします。 まず、切羽崩壊の心配がないことから安全性が格段に向上し、周辺地盤への影響もほとんどありません。実際の計測でも、地表の変位は最小限に留まりました。さらに、けん引作業は1時間に1mのスピードで進み、土砂排出を含めた全体の工期は、他工法の3倍もの速さに。この速さと、補強工法が不要なことによるコスト削減も大きなメリットです。結果として、交通を止めずにインフラの下を横断したり、薄い土被りで河床を渡ったり、最大30度の急勾配トンネルを構築したりと、地下トンネル技術に新たな可能性を示したのです。