電気工学
後編
異分野のかけ合わせで挑む、
エネルギーとインフラのイノベーション
現代生活において、必要不可欠な存在である電気。脱炭素が求められる中、電気の作り方、使い方にも大きな変化が求められており、社会の基盤となるインフラや建物のあり方も、深く関係しています。今回取り上げるのは、目に見えない「電気」を制御し、社会を動かす力へと変える「電気工学」です。
東京電機大学 未来科学部の吉本貫太郎教授と日本国土開発の若手エンジニアたちとともに、ゼロから1を生み出す研究開発の面白さに迫ります。
吉本 貫太郎
東京電機大学 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科 教授。専門は電気工学とメカトロニクス。以前は自動車メーカーにて、電気自動車の研究開発を行っていた。駐在先のヨーロッパでの経験から、日本の過酷な国土環境とインフラ整備の難しさを痛感。
相良 智顕
日本国土開発 つくば未来センター 建築技術グループ。大学では建築構造学を専攻し、入社後は建設現場で施工管理を担当。この度研究開発デビューを果たし、現場視点を活かしながら、「ソイルバッテリ™」の開発に取り組む。
時信 風弥
日本国土開発 つくば未来センター 建築技術グループ。大学で材料工学(コンクリート工学)を専攻。他社のコンクリート蓄電の事例から「土にもカーボンを混ぜたら電池になるのでは?」と思いつき、「ソイルバッテリ™」開発のきっかけを作った一人。
イノベーションを生む、
ホームラン狙いの精神
研究開発には、現在のビジネスへの貢献に加えて、数年後、十数年後を見据えた新たな価値創出への挑戦も求められます。既存の枠組みを超えて新たなビジネスの種をまき、これを育てていくために必要とされるマインドセットとは。かつて自動車メーカーで同様の業務に携わってきた吉本教授に聞きます。

- 相良:
- 私たちも専門外の分野でゼロから研究を進めていますが、先生が自動車メーカーの研究開発職として新しい分野に挑まれてきた際、どのようなマインドで取り組まれていたのでしょうか。
- 吉本:
- 既存のルール上で不利な戦いを強いられないためには、世の中をよりよくする日本発の新しい価値、それを実現するための技術を作るしかありません。研究開発には、空振りを恐れずにホームランを狙う姿勢が求められます。もちろん空振りばかりでは試合に勝てませんが、1番から9番までの全員が手堅く送りバントをしているチームでは、決して新しいものは生まれませんし、9回が終わったときには負けてしまうでしょう。この研究開発と現業のバランスが、業種を問わずR&D部門の腕の見せ所、なのでしょうね。
- 時信:
- ハイブリッドカーやカーナビゲーションなどのイノベーションも、送りバントからは生まれなかったはずですからね。
- 吉本:
- そうですね、どちらも日本発で世界へ広がっていった技術ですが、空振りを恐れずに「ホームラン」を狙ったからこそイノベーションとなり、世界を変えたのです。今や誰も「何の役に立つの?」なんて言いません。世の中の当たり前になっています。

- 相良:
- 私たちが取り組んでいるソイルバッテリ™も、なくてはならない存在になれたらいいんですが。
- 吉本:
- まだ試合の最終結果は分かりません。でも、「こんな価値をつくりたい」という想いから誰もやったことのない新しい技術に取り組んで、実際にモータが動いたんです。これはもう送りバントや1塁打じゃない。「ホームラン」だと思いますよ。
ソイルバッテリ™の
仕組みと現在地
コンクリートに蓄電できるのならば、土でも同じことが可能なのではないか。そんな素朴なひらめきから研究が始まったソイルバッテリ™は、化学反応を用いる電池とは異なり、静電気と同じ仕組みで蓄電を行う仕組み。そのメカニズムと開発の現在地とは。

- 吉本:
- ソイルバッテリ™は、「キャパシタ」という仕組みに近いですね。電池は化学反応で電気を貯めますが、キャパシタは冬場にバチッと来る「静電気」を貯める仕組みです。
- 吉本:
- ええ。キャパシタは蓄電を担う部分の表面積が性能に関わってきます。今回取り組んでいるのは「電気二重層」という仕組みで「電解液」に含まれた物質の表面に静電気を貯めます。これに土を用いるとすぐに電気が抜けてしまいますが、カーボンや塩水などと組み合わせることで蓄電が可能になります。ここで蓄電性能のカギになってくるのが「電気の出入りをどうコントロールするか」という技術なんですね。
- 時信:
- 高校物理のレベルの知識だと「電気の抵抗は小さい方がいい」と思い込んでいましたが、電気を蓄えておくためには大きな抵抗も必要になってくる。これは先生からアドバイスをいただく中でわかったことです。使うときにスムーズに流すための小さな抵抗と、漏れを防ぐための大きな抵抗の同居ですね。
- 相良:
- 最初は10〜20秒小さなモータが回る程度だったのですが、現在ではUSBファンが1時間以上回るレベルにまでに達しています。地道な研究ですが、着実に前に進んでいる実感はありますね。

倍になる喜びと、
逆算で見えてきた確かな指標
手探りの試行錯誤から始まったソイルバッテリ™は、吉本教授とのコラボレーションによって進化のスピードを加速させています。前例のない技術だからこそのダイナミックな性能変化、進化の先に見据える「土から給電する未来」について語ります。

- 相良:
- 最初は手当たり次第にとにかくやってみるという感じで、進化の度合いがわかりませんでしたが、誰もやったことのないものだからこそ伸びしろしかないと感じています。少しの改良を加えるだけで、指標としている数値が2倍、3倍とダイナミックに変化していくのを実感できるのがたまらなく嬉しいんです。専門外の領域であっても、課題をクリアしていくプロセス自体にエンジニアとしての大きな喜びを感じています。
- 時信:
- 本当にそうですね。最初は「とりあえず繋いでみよう」だったのが、「この大きさの土なら何ボルト出るか」が分かり、「あのファンを回すためには何個繋げばいいか」を逆算して突き詰められるようになってきました。「まだ遠いな」「もうちょっとじゃん」という指標と課題が見えてきたので、今後はそれを1個1個潰して形にしていきたいです。
- 吉本:
- 実用化された先には、どのような未来を描いていますか?
- 時信:
- 当面の目標は、昼間に太陽光で発電した余剰電力を土に貯め、夜に使い切れるようにすることです。ゆくゆくは現場全体の電力も賄えるようになって、「実はこの地下で、巨大なソイルバッテリ™が動いているんですよ」と言える未来を作れたら最高ですね。

- 吉本:
- そうなったら素晴らしいですね。ヨーロッパのインフラ事情を見たときに「なんで私たちはこんなに災害の多い日本に苦労して住んでいるんだろう」と思ったんです。いろいろあるけれど、突き詰めれば「好きだから」なんですよね。ここに住み続けたいからこそ、いろいろな工夫をして……つまり技術を生み出して自然災害を克服している。建設技術にはそんな切実な想いが込められているし、だからこそ世界を変えうる力を持っているんだと思います。
役に立つものを「かたち」にする。
電気工学と建設の共通点
目に見えないエネルギーである電気と、目に見える巨大な構造物をつくる建設。扱う対象もスケールもまったく異なる両者ですが、研究を進めるうちに、実は同じゴールを見据えていることが分かってきました。異分野の知識が掛け合わさることで見えてきた、電気工学と建設の根底にある共通点。技術を通じて人間社会を豊かにしていくというエンジニアたちのチャレンジは、これからも続いていきます。

- 相良:
- 今回、電気工学──特にメカトロニクスの専門家である先生と一緒に研究をさせていただいて思ったのですが、建設もメカトロニクスも「人間の目に見えるようにする」という意味では同じなのかもしれないですね
- 吉本:
- そうですね。電気はそれそのものだと目に見えませんが、機械と組み合わさることで「動くもの」に変わります。物理的な存在となって、人が享受できる価値になるわけですね。電気工学は、他の分野を進化させるブースターみたいなものなのかもしれません。
- 時信:
- 電気と「建築物」との組み合わせはこれまでも当然ありましたが、「土」と組み合わせて新しい価値を生み出せたらいいですね。
- 吉本:
- お二人からするとまったくの異分野で、苦労することも多いと思います。でも、社会課題が複雑化し、アプローチも変化していく中でこの経験は必ず活きると思います。私も自動車メーカーの頃に別のメーカーとの協業だとか、現地法人のスタッフの教育だとか、まったく経験のない業務もいろいろと担当しましたが、技術開発に限らず「ゼロから荒れ地を耕す」というのは大変だけれど非常にやりがいのある仕事です。
こんなチャレンジングな研究をしている建設会社があるということはすごく心強いですし、この「ホームラン」を「勝利」につなげられるようなお手伝いができたらと思っています。
