Technology
技術紹介

Vol.3 土を変えること、土を感じること
土には「生きた素材」とも呼べる奥深さがある。学術的には魅力的な研究対象でもあるが、土木・建築の現場ではその複雑な性質が大きなリスクとなる。水分量や粒度のばらつきは施工の品質に大きく影響してくるため、建設業界では「土の改良」に力を注いできた。
土の改良には大きく分けて「物理的改良」と「化学的改良」がある。物理的改良には締固めや圧密などがあり、土の粒子の性質を変化させることで強度や安定性を高めていく。一方、化学的改良ではセメントや石灰、中性固化材などを加えることで、土の性質を化学的に変化させていく。

どんなに扱いづらい土であっても、適切に処理すれば「使える土」になる。ただし、それが合理的であるかどうかは別の話である。いくら時間をかけてもよい、コストをかけてもよいというわけにはいかないからだ。数ある方法の中からどれを選択するべきなのか、コストを抑えながら求められる性質を実現するにはどうすればよいのか。これらを判断するためにはノウハウが必要なのだ。
土の性質を五感からも読み解く
技術者たちは、五感を研ぎ澄まして土と向き合う。土の中に含まれる水分の状態や粘り気、肌から感じられる粒子の形状、独特の匂い。こうした五感で得られる情報は、「生きた素材」である土を理解するうえでいまだ重要な要素であり続けているのだ。

たとえば、触れたときに「ちくちく感」のある土は自然風化が進んでいないことを示すサインでもあり、こうした土は締固めの際に空隙ができやすく、強度や密度に影響を及ぼすことがある。写真や試験の数値だけでは見抜くことは難しく、実際に手で触れてようやくわかるものでもある。
土の強度を測る試験などでは、さまざまな土を扱ってきた経験をもとに性質変化の傾向を読み解いたり、より確かな判断に結びつけたりしてきた。すべてを数値化できるわけではないからこそ、感覚を頼りにする考察や判断が「現場の知」として受け継がれてきたのだ。
土のデジタル化への挑戦
「現場の知」を次世代へ伝えるのは簡単なことではない。たとえ試験結果を正確に記録していたとしても、技術者が土に触れたときの違和感や、判断の裏側にあった理由までは読み取れないからだ。
どのくらいの水分が含まれているかという含水比や、どのような粒度の土から構成されているのかという粒度分布など、土質を評価する上でのベーシックな情報。これらを収集・蓄積することはもちろんのこと、定性的な情報をどのように記録し、利用していくのかについての取り組みは続いている。
土について解き明かせていないことは多い。それでも「いつかきっと解き明かせるはず」と語るエンジニアの言葉に迷いはなかった。これからも人間が暮らしていく上で、「土」との関係は必ず続いていく。これをより確かなものとし、受け継いでいく。これは長年にわたって「土」を強みとしてきた日本国土開発の新たな挑戦でもあるのだ。