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Vol.3 現場に着いたらすぐ土砂改良 -新しい「自走型」への挑戦

異常気象により河川の氾濫が増える中、河川の幅を広げたり、河川を深くしたりといった対策は急務となっている。
こうした工事で活躍するのが、高い機動性を持った「自走型」回転式破砕混合機だ。エンジニア陣は、これを標準仕様でオールインワンのより使いやすいものへと改良するとともに、処理能力もさらに向上させることで、多くの現場に貢献することを目指した。
Vol.2『新型・自走型回転式破砕混合機の開発-土砂改良に機動性を 「自走型」回転式破砕混合機の誕生-』はこちら

「オールインワン」を実現するために、必要なこと

現場に着いたらすぐ使える機械にするには、完成状態のままトレーラーに積載して運搬できるようにしなくてはならない。日本の道路交通法では、道路を走行する車両の全高は4.1m以下と定められていることから、積載状態でこれを下回る寸法にする必要がある。
自走型回転式破砕混合機の中で、もっとも高さのあるのが土砂を処理するための破砕混合機の部分。そこで、この部分の高さを下げるための検討が行われた。
そして、この高さの低減は、投入のためのベルトコンベヤの全長短縮、ひいては発電機の搭載スペースの確保につながり、まさにオールインワンを実現するための切り札でもあった。

破砕混合機の中には3段のチェーンが並んでおり、これが高速回転することで土砂の破砕・混合が行われる。もし、チェーンを2段とすることができれば全高の問題を解決することに近づくわけだが、3段構えになっていたことにも理由はある。これは、回転式破砕混合機が扱う「土砂」というものの特性による。

「土砂のふるまい」の解明で新構造を実現

土砂は工事が行われる場所によって、性質がまったく異なる。粘土のように粘り気が強いものもあれば、砂のようにサラサラとしたものもある。加えて、同じ場所の土砂であっても性質として均一なわけではない。さまざまな種類のものが入り交じることが多く、機械の内部における「土砂のふるまい」の解析を困難にしていた。

そうしたことから、土砂とチェーンが接触する確率を可能な限り高めて多種多様な土質に対応するという考え方が採られ、3段分の高さが必要となっていたのだ。
しかし近年になって、コンピューターシミュレーションの精度が向上。さらに、日本国土開発が長年蓄積してきた土質に関するデータも活用することで、2段に並べたチェーンでも、さまざまな性質の土砂に対応できる可能性が高いことがわかった

この結果をふまえてチェーン1段分の高さを縮小したのに加え、回転軸となるシャフトを上部のみで支持するものへと改良。トレーラーに積載した状態で4.1m以下の全高にすることが可能になった。
組立不要という第一の目標は達成だ。続いて挑んだのが「処理能力の向上」である。

エネルギー変換器としての回転式破砕混合機

シュートから破砕混合機に投入された土砂は、落下しながら高速回転するチェーンに当たって破砕・混合が行われる。このとき、金属のリングをいくつもつなげたチェーンは、土砂に対して「しなる」ように動く。
前述のとおり、土砂は同じ場所のものであっても、さまざまな種類が入り交じることが多い。土の中に含まれる、小さなレキなどを破砕する際の衝撃がシャフトに伝わるのを防ぎ、機器のトラブルを回避するために、非常に適した構造なのである。

回転式破砕混合機は、一種の「エネルギー変換器」であると言うこともできる。ディーゼルエンジンで発電した電気エネルギーによってモーターを駆動し、チェーンを回転させ、その運動エネルギーによって土砂を破砕・混合する。処理能力の向上とは、電気エネルギーから運動エネルギーまでの変換効率をいかに改善するかということとイコールであると言えるのだ。

ここで問題になるのが、チェーンの「しなり」である。チェーンは、小さなレキなどを破砕する際の衝撃を和らげるのに適している一方、エネルギーの変換効率という意味では改善の余地がある。チェーンが土砂に接触した際のエネルギーの一部が、破砕・混合ではなくチェーンをしならせることに使われてしまうからだ。

エネルギー変換効率を向上させるインパクトバー

破砕にともなう衝撃を和らげながらも処理能力を向上させるため、新たに採用したのがインパクトバーと呼ばれる、ブレード状のパーツだ。
剛体であるインパクトバーは、チェーンのように「しなる」ことはないため、回転によって生まれるエネルギーを余すことなく土砂へと伝えることができる。つまり、土砂の破砕・混合がより効率よく行われるようになるのである。

もちろん、レキなどに当たった際の衝撃を和らげるというチェーンの美点も継承されている。
インパクトバーの取付部は、大きな衝撃に対して回転できるようになっており、シャフトなどへの負担を和らげる。この構造を採ることで、信頼性を確保しながらも処理能力を向上させることが可能になった。ただし、質量の大きいインパクトバーの慣性により回転軸に伝わる衝撃力が残るため、ここに新たな干渉構造を設けて信頼性をさらに上げるべく、開発を継続している。

狭い河川敷も含めた多様な現場で迅速な施工を実現し、安全・安心な生活環境をいち早く届けていきたいという想いから誕生した、新しい自走型回転式破砕混合機。
ここには、機械化施工のパイオニアとして培ってきた機械に関するノウハウ、そして数多くの土工事を通じて得られた土の知見が活かされている。
しかし、日本国土開発が掲げる「建設を人間から機械へ」という大きな目標を達成するには、より一層大胆な進化が必要だ。いまエンジニアたちは、ここに異分野の技術を組み合わせ、世界の治水工事等で活躍できる機械の開発に取り組み始めている。
Vol.4 『世界の土砂を改良したい -エンジニアたちの挑戦』はこちら